大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(手ワ)71号 判決

原告

株式会社商工ファンド

右代表者代表取締役

右訴訟代理人支配人

被告

株式会社ヴェッセル

右代表者代表取締役

Y1

被告

Y1

右両名訴訟代理人弁護士

菰田優

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三四七万八四一七円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することが出来る。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金四八四万円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が被告らに対し、別紙手形目録≪省略≫記載の手形(以下「本件手形」という。)について手形金残金及びこれに対する利息の支払を求める事案である。

二  被告らが本件手形を共同で振り出したこと、原告が平成八年一二月六日本件手形を支払場所に呈示したこと、原告が貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)三条の登録を受けて貸金業を営んでいること、本件手形は原告の被告株式会社ヴェッセル(以下「被告会社」という。)に対する貸金の担保のために振り出されたものであること、原告の被告会社に対する貸付及び被告会社の弁済の経過が別紙計算表≪省略≫(一)のとおりであることについては当事者間に争いがない。

三  当事者の主張

1  被告ら

原告の被告会社に対する貸付(以下「本件貸付」という。)及び被告会社による弁済の経過は、別紙計算表(一)のとおりであり、貸付時点で交付された計算書による利息の支払(天引き)後の支払について、利息制限法による制限超過利息を元本充当すると、被告会社の原告に対する借入金債務の元金は、金二三三万〇〇三九円となる。

したがって、金二三三万〇〇三九円及びこれに対する利息を超える部分の手形金請求は原因関係を欠くものである。

2  原告

原告は、貸金業法三条の登録を受けて貸金業を営んでいるものであり、本件貸付にかかる弁済は、同法四三条一項の適用を受ける。

四  争点

原告が被告会社に送付した「お利息のご案内及びお取引明細」(≪証拠省略≫)が貸金業法一八条の書面に該当する否か。

五  争点についての当事者の主張

1  原告

(一) 原告は、被告会社から弁済を受けた際には、必ず貸金業法一八条所定の内容を記した「お利息のご案内及びお取引明細」(≪証拠省略≫。以下「取引明細書」という。)を郵送により被告会社に交付してきた。

取引明細書は、毎月二五日に原告の顧客宛に電子メールで送付されるものであるが、前回までの取引明細(入金日、契約番号、融資金額、元本返済額、計算期間、受領金額)を示し、翌月五日を入金予定日とする翌月の利息等の明細(契約番号、融資金額、計算期間、元本、利息、費用)を記載しており、利息額等の充当関係が表示されている。

(二) 原告は、取引明細書を、翌月五日を利息等の入金予定日として、当月二五日に顧客に発送しており、実際に入金がなされた日から最長一か月程度の後、受領と充当関係を記載した部分が顧客に送付されることになる。貸金業法のみなし弁済の趣旨からすれば、同法一八条の書面は支払と同時に交付されることを予定していると考えられるが、原告は、取引明細書に翌月五日までに支払うべき利息等の金額(計算期間、契約番号、実質年利)を予め明示しており、原告の顧客が入金予定日までに支払う限り、利息等及び元本の充当関係を事前に認識できるように図っている。

2  被告ら

(一) 取引明細書は、原告が主張するような受取証書ではなく、実質的には請求書であり、その請求の明細を明らかにする過程で先月分(前回)の支払状況を記載しているに過ぎず、貸金業法一八条の書面には該当しない。

(二) 貸金業法一八条は、弁済を受けたときは、その都度直ちに書面を交付することを要求しているところ、取引明細書は、その作成日付から見て、弁済後約一か月後に交付されており、その都度直ちに交付されたものとはいえない。

第三当裁判所の判断

一  貸金業法四三条によれば、債務者が貸金業者に対して利息制限法所定の制限を超過する利息又は損害金の支払をした場合にこれを有効な利息又は損害金の弁済とみなすためには、貸金業者が右支払に係る金員の貸付の際に貸金業法一七条所定の書面を交付すること、同法一八条所定の書面を交付すること、債務者が利息又は賠償金として任意に支払ったものであることを要すると定められている。

二  貸金業法一八条一項に定める書面には、貸金業者の商号、名称及び住所(同項一号)、契約年月日(同項二号)、貸付の金額(同項三号)、受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額(同項四号)、受領年月日(同項五号)の記載を要し、同項六号に規定するその他大蔵省令で定める事項として、同法施行規則一五条一項に規定する弁済を受けた旨を示す文字(同項一号)、貸金業者の登録番号(同項二号)、債務者の商号、名称又は氏名(同項三号)、債務者以外の者が債務の弁済をした場合においては、その者の商号、名称又は氏名(同項四号)、当該弁済後の残存債務の額(同項五号)の記載が必要である。

三  ≪証拠省略≫によれば、原告が被告会社に送付した平成七年四月二五日付、同年五月二五日付、同年六月二三日付、同年七月二五日付、同年八月二五日付、同年九月二五日付、同年一〇月二五日付、同年一一月二四日付、同年一二月二五日付の各取引明細書は、いずれも①貸金業者たる原告の商号及び住所、②契約年月日に代わる契約番号(貸金業法施行規則一五条二項)、③貸付の金額、④受領金額及びその利息等及び元本への充当額、⑤受領年月日、⑥弁済を受けた旨を示す文字「当社は下記受領額以外は受領いたしておりません。」、⑦貸金業者の登録番号(関東財務局長(3)第〇〇七五四号)、⑧債務者である被告会社の商号、⑨当該弁済後の残存債務の額の各記載を備えており、貸金業法一八条の書面の要件を充たしている。

四  ところで、被告らは、取引明細書が弁済の約一か月後に被告会社に送付されており、弁済の都度直ちに交付されたものといえないから、本件において貸金業法四三条の適用はない旨主張するので、この点について検討する。

貸金業法一八条一項四号は、貸金業者に対し、弁済を受けたときは、その都度直ちに「受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額を記載した書面」を交付することを義務付けており、貸金業者の店頭において債務者が弁済を行う際には、実際上、債務者の金員の交付と同法一八条所定の書面の交付がほぼ同時に行われていると考えられる。しかし、本件においては、被告会社の弁済は振込送金の方法によって行われていたのであり、原告が被告会社による振込送金を確認して同法一八条所定の書面を送付するまでの間、相当の日数を要することは当然予定されることである。また、同法四三条の適用要件として見た場合、同法一八条所定の書面を弁済の都度直ちに交付することの主たる意義は、弁済の際、債務者に支払金が約定による利息又は損害金に充当されることを認識させることにあると考えられるところ、本件においては、取引明細書に翌月五日までに支払うべき利息等の金額(計算期間、契約番号、実質年利)が予め明示されており、債務者は、利息等及び元本の充当関係を事前に認識できる。被告会社は、取引明細書により、予め利息等及び元本の充当関係を認識した上で、振込送金の方法により弁済を行っていたのであるから、取引明細書が弁済の約一か月後に被告会社に送付されていたからといって同法四三条の適用上支障を来すとは考えられない。

五  ≪証拠省略≫によれば、別紙計算表(一)記載の被告会社の原告に対する弁済のうち、平成七年五月二日、同月一六日、同年六月五日、同年七月五日、同年八月四日、同年九月五日、同年一〇月二五日、同年一一月二九日における弁済については貸金業法一八条所定の要件を充たす取引明細書が被告会社に送付されており、同法四三条の適用を認めることができる。

六  別紙計算表(一)記載の被告会社の原告に対する弁済のうち、平成七年一二月二六日以降になされた弁済については貸金業一八条所定の書面の交付を認めるに足る証拠はないから、同法四三条の適用を認めることはできず、別紙計算書(二)記載のとおり利息制限法による制限超過利息を元本充当すると、被告会社の原告に対する借入金債務の元本は、金三四七万八四一七円となる。

したがって、金三四七万八四一七円及びこれに対する利息を超える部分の原告の手形金請求は原因関係を欠くものといわざるをえない。

七  以上の次第で、原告の本件請求は、被告らに対し、各自手形金三四七万八四一七円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例